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ATISは空港の運航情報源

 航空機の安全運航には、気象条件が大変密接に関係しています。例えば風向・風速・視界の状況などです。

 

 航空機は原則として向かい風で離陸・着陸しますので、風向の情報は大変重要。雨や雪の日には滑走路が滑りやすいですし、視界も悪くなります。安全な運航のためには、パイロットは現在の空港の気象状況を的確に把握しておく必要があるのです。

また、使用されている滑走路や、工事の情報なども安全運航に欠かせない情報です。

 

 その情報を流しているのが「ATIS」です。

空港ごとに周波数が割り当てられていて、エアバンドを受信できるワイドバンドレシーバーなら簡単に聴くことが出来ます。空港に出かけた時には、ぜひ一度「ATIS」を受信してみて下さい! 覚えておくと便利な情報がたくさんありますよ。

1.「ATIS」とは?

 「ATIS」とはAutomatic Terminal Information Serviceの略で、日本語では「飛行場情報放送業務」と言います。「エイティス」とか「アティス」などと読みます。

 

 「放送」業務と言うだけあって、空港の運用時間中は、絶え間なく連続送信されています。ワイドバンドレシーバーで受信すると、同じ内容を繰り返して送信し続けているのが判ります。

 

 送信される内容は、情報に付けられた記号と時間、使用滑走路と周辺の風向・風速・視程・雲の高さと量・気温・露点温度・気圧・特記事項などです。パイロットは、コクピットで主に出発と着陸の準備の際にATISを受信し、得られた情報により安全に着陸するための準備を整えます。

 

 次の項目から、具体例を元にして詳しく内容を解説していきます。

2.ATISで提供されている情報

 では、具体的に細かく見ていきましょう。

 

 次の文章は、ATISで送信されている情報の一例です(実際に送信された内容ではありません)。

 

Oita Airport, Information Juliet,2230,ILS Z Runway 01 Approach, Using Runway 01,Wind 030 Degrees 4 Knots,Visibility 10 kirometers,Few 3000 feet stratus,Scatter 7500 feet cumulus,Temperature 23,Dew point 17,QNH 2994 inches,Advice You have information Juliet.」

 

 この文章を、細かく区切って見ていきましょう。

(1)「Oita Airport,Information Juliet,2230,」

 ATISの冒頭部分になります。ここではまずどこの空港の情報か、いつの情報かを示します。

一番最初の「Oita Airport」は、当然ですが空港名です。まあこれは判りますよね(笑)

 

 次に来る「Information Juliet,2230」がいつの情報であるかを示します。

4桁の数字「2230」は時刻を協定世界時(世界標準時)で示しています。この例では、世界標準時の22時30分の情報を表し、日本標準時では7時30分(9時間を足します)の事です。

 

 その前にある「Juliet」は、時刻ごとに割り当てられる記号で、Aから順にアルファベットが付けられます。Zまで達したらまたAに戻ります。

例えば空港の運用時間が日本標準時の午前6時で、ATISが午前5時から流された場合は、日本標準時で5時の情報から記号「A」が付けられていきます。この時のATISでは、「Information A,2000,」となるわけです。

 

 ちなみに「A」は普通にアルファベット読みで「エー」とは表現されず、フォネティックコードで「アルファ」と発音します。「フォネティックコード」は「 航空管制の用語 」ページで解説していますので、ご参照下さい。

(2)ILS Z Runway 01 Approach,Using Runway 01,」

 次に来るのは「着陸方式と使用滑走路」の情報です。

 

 「ILS Z Runway 01 Approach,」が着陸方式を示します。着陸方式は空港ごとに決められており、それぞれに名称が付いています。パイロットはその名称を元に、専用のチャート(地図のようなもの)を見ることで、着陸方式が判るようになっています。

 着陸方式で定められているのは、「どの地点をどれくらいの高度で通過するか」などと言った着陸ルートの情報などです。

 

 次の「Using Runway 01」が使用されている滑走路になります。この例文では滑走路01を使用している事を示しています。

羽田空港など、滑走路を複数有しており、離陸と着陸で滑走路を使い分ける場合は、「Take off Runway 05 Landing Runway 34R」などのように表されます。

(3)「Wind 030 Degrees 4Knot,Visibility 10 kirometers,」

 次の項目は「風向・風速・視程」です。

 

 「Wind 030 Degrees」は風向が30度からであることを示します。風向は真北を360°として10度単位で表します。

 

続く「4 Knots,」が風速で、「ノット」の単位で表されます。約2分の1にすると、日本の気象予報で使われる「m/秒」(毎秒○m)になります。例えば例文の4ノットは、毎秒約2mであることが判ります。

 

 そして次の「Visibility 10 kirometers,」が視程となります。「視程」とは、「肉眼で見通すことが出来る距離」の事です。例文の場合、肉眼で10km先まで見ることが出来る状態であることが判ります。

(4)Few 3000 feet stratus Scatter 7500 feet cumulus,」

 次に、「雲の状況」を示す情報が来ます。雲の状況は「雲量」「高さ」「種類」で表現されます。

雲量」とは、空港上空を見渡した時に、雲の量がどれくらいの割合かを表します。ATISでは下表のような言葉で表現しています。

表 現 方 法 雲 量
Few
(フュー)
8分の2以下
Scatterd
(スキャタード)
8分の3~4
Broken
(ブロークン)
8分の5~6
Overcast
(オーバーキャスト)
8分の8

 「高さ」は雲の底面(雲底)がどれくらいの高さにあるかを「フィート」で表します。雲底高度が計測できない場合は、「Height unknown(ハイト アンノウン)」と表現します。「雲の種類」は、下表のように表現されています。

表 現 方 法 雲 の 種 類
Stratus
(ストレイタス)
層雲
Altostratus
(アルトトレイタス)
高層雲
Nimbostratus
(ニンボストレイタス)
乱層雲
Cumulus
(キュムラス)
積雲
AltoCumulus
(アルトキュムラス)
高積雲
CumuloNimbos
(キュムロニンバス)
積乱雲
ToweringCumulos
(タワリングキュムラス)
塔状積雲
StratoCumulus
(ストレイトキュムラス)
層積雲

 ※それぞれの雲の種類について、詳しいことをお知りになりたい方は、気象庁などのホームページをご参照願います。

(5)「Temperature 23,Dew Point 17,」

 空港周辺の「気温」と「露点温度」を示しています。いずれも「」の単位です。例文の場合は、気温が23℃、露点温度が17℃であることを表しています。

 

 航空機が離陸・着陸する時の滑走距離と機体重量の計算をする時に、気温と湿度は重要な数値です。細かいことは航空力学の勉強をすると判ると思います(私はそこまで詳しくありません)。

 

 「露点温度」とは、湿度を「大気中の水分量が変わらないで、湿度が100%になる温度」として換算したものです。

(6)「QNH 2994 inches,」

 「高度計規正値」と呼ばれるものです。

 

 航空機では、飛行高度の計測に「気圧高度計」を使用しています。これは、高度が上がると気圧が下がる事を利用した高度計です。気圧を利用するため、現在の地上気圧と高度計側の設定気圧が一致していないと、正しい高度が指示されません。

空港周辺の気圧を測定しておき、ATISでこの情報を伝えることで、航空機側では正しい高度が指示されるようになります。

 

 この数値は「水銀柱インチ(inHg)」の単位で表されています。ニュースなどの天気予報で使われている気圧の単位は「hPa(ヘクトパスカル)」なので、数値が違います。

 

 ちなみにこの「QNH」の数値を、一般的な天気予報の「hPa」に換算する場合は、「QNH」の数値に0.3386を掛けます。例えば「QNH」が29.92(inHg)だった場合は、29.92×0.3386=1013(hPa)となります。

(7)「Advice you have information Juliet.」

 最後のフレーズは、パイロットが最新情報を持っているかを確認するためのものです。

 

 「一番最初に空港の管制官と更新する際に、情報識別記号「J」を伝えて下さい」という意味です。

もし、パイロットの伝えてきた情報識別記号と、最新のATISの識別記号が異なっている場合、パイロットは古い情報しか持っていないという事が判るので、管制官は改めて最新情報を伝達します。

 このようにして、管制官とパイロットが最新情報を共有出来るようになっています。

3.特記事項

 ここまで見てきた情報の他に、気象状況の急激な変化や、特別注意すべき悪天候(強い乱気流の存在など)を伝える必要がある場合、「Remarks(リマークス)」というフレーズに続いて、その内容が放送されます。

4.ATISの活用方法

 このように、パイロットにとって需要な情報を伝えるATISですが、趣味でエアバンドを聞いている私たちにとってのATIS活用法には、どのようなものがあるのでしょうか?

1.事前に使用滑走路の情報を得る

 例えば空港で航空機の写真を撮影する場合、ターミナルビルの展望デッキなどに行くことが多いと思いますが、空港によっては施設の周辺に良い撮影スポットがある事も多いです。どの撮影スポットに向かうかを決めるためには、現在の使用滑走路を正確に把握しておく必要があります。

 

 そんな時、空港に到着する前からATISを受信しておき、使用滑走路の情報を持っていれば、空港周辺の広いエリアを無駄に走り回ることなく、目的の撮影スポットに向かうことが出来ます。

 

 もし、使用滑走路が判らずに現地に行き、着いてみたら滑走路が逆だった・・・という事になると、時間の無駄になるだけでなく狙った航空機を撮影し損ねてしまったなんて事にもなりかねませんよね。

 

 航空機の写真を撮影する時に、ATISは情報の収集に便利なツールです。

2.快適なフライトの心構えになる」

 旅行や出張などで飛行機に乗る際、もし天候があまり良くない時は、揺れる心配などが考えられますよね。私はあんまり揺れるのは好きでなないので、事前の心構えにATISを利用しています。

 

 具体的には、ATISの情報を聞くことで雲の状況を知ることが出来ます。雲を通過する時や、その近辺を飛行する時に、航空機が揺れることがが考えられるので、どれくらいの高度に雲があるのか、どんな雲なのかが判っておくと、離陸後どれくらい揺れる可能性があるかを事前に考えておけます。

 

 すると、だいたいの心構えが出来ているので、少し揺れた場合でも「多分もう少しで揺れるエリアを抜けるよな」と考えられるので、気持ちが楽になります。

 もちろん、揺れる原因は雲だけではないので、これだけでは完璧では無いのですが、少しでも情報があるだけで気持ちの持ちようが違うのは誰でも同じだと思いますが、いかがでしょうか?

 ATISは、その目的や使用周波数の関係から、あまり空港から離れた地域では受信することが出来ません。ですので、もし空港の近くに行く機会があったら、是非ATISを受信してみて下さい。空港ごとにイントネーションが少しずつ違っていたり、面白い発見があるかもしれませんよ。